知人を迎えに成田空港に行ってきた。夢と希望と挫折、そして再会と別れが交錯する独特の空気が流れる空港は、実はあまり好きではない。大学時代、ぼくがSanta Cruz, CAに旅立つとき、一番の親友Sから「日本語が恋しくなるから」と単行本一冊を手渡された。
恋はいつも未知なもの(村上龍 著)
当時はインターネットはまだまだ普及しておらず、日本語が恋しくなったら大学図書館で2週間遅れの新聞を読むしかなかったが、この本は純粋に面白く、滞在中に何度か繰り返し読むことになった。
幻のジャズバーをめぐるショートストーリーは題がそれぞれジャズのスタンダードナンバーのタイトルになっている。
YOU DON’T KNOW WHAT LOVE IS(恋はいつも未知なもの)
YOU’D BE SO NICE TO COME HOME TO(帰ってくれて嬉しいわ)
DON’T EXPLAIN(何も言わないで)
IT’S A SIN TO TELL A LIE(嘘は罪)
・・・等々
Sとは京都の実家の6畳間で、今でも現役で活躍するONKYO D-77XXが奏でるBill EvansやJohn LewisやMiles Davisを聴いていた。YAMATOYAに最初に連れて行ってくれたのもSだった。だからこの本をプレゼントしてくれたのだろう。そんな大切な本をSanta Cruzから帰国する際に、まだ残っている日本人に譲ってしまったことを後で後悔する。
ぼくが40歳のとき、Sが急逝し真っ先にこの本が思い出され無性に読みたくなったが、すでに絶版となり手に入らない。しょうがないから単行本と文庫本を古本で買ってみたが、あまり程度が良くなかった。今となっては誰だったかも思い出せないような人物に譲らず、ずっと大切に持っていれば良かった。
Jazzの巨匠たちは天国で永遠の命を得て、いつまでもswingしているのだろうか・・・
そして、Sは相変わらずAmerican Spiritの紫煙を燻らせているのだろうか・・・
I’LL REMEMBER YOU(思い出すからね)