一気に秋になったと思ったが、昼間が夏のように暑い日もある。土曜日は絶好の自転車日和だったが、御茶ノ水の井上眼科で定期健診とコンタクトレンズの処方箋のために7:30から並ぶ。井上眼科は全国的にも有名で、夏目漱石もお世話になり、その待合室で妙齢の美しい女性に一目惚れしたと正岡子規への手紙に書いているらしい。ぼくも妙齢の美しい女性に出会うことを期待してかれこれ10年以上通っているが、待合室では高齢の女性にしか会ったことがない。
定期健診は当初3ヶ月毎だったのが、進行が遅いので6ヶ月で大丈夫となり、今回の診察で1年で良いと言われたのは嬉しい。ぼくの定期健診を必要とする原因は自転車には関係ないが、今のようにアイウェア（サングラスというより）が一般的になる前の自転車乗りは風圧や紫外線のせいか、晩年は目の病気に悩まされる選手が多かった。ツール・ド・フランス総合優勝5回を誇るベルナール・イノー（仏）もいつも裸眼で走っていたが引退後は白内障か緑内障を患っていたようだ。レースのときも大学教授のような普通の眼鏡をかけていたローラン・フィニヨン（仏）は、眼病を患ったかはわからないが、癌のため50歳の若さで亡くなった。
自転車乗りがアイウェアをするようになったのはおそらくヨーロッパ人以外で初めてツール・ド・フランス総合優勝（1986年）を果たしたグレッグ・レモン（米）からではないだろうか。レモンのOakleyがカッコ良くて、それまで眼鏡をかけていたぼくも真似するために大学2回生くらいからコンタクトレンズをするようになった。当時（今でもだけど）かなり高価だったOakleyとコンタクトレンズでバイト料のほとんどが消えていった。Oakleyといえば、福本豊の盗塁世界記録を抜いた時のリッキー・ヘンダーソン（オークランド・アスレチックス）がセカンドベースを引っこ抜いて頭上に掲げた時にドアップで映ったのもOakleyだった。
四半世紀近くOakleyを愛用していたが10年くらい前から、老眼が始まり、まだ遠近両用コンタクトレンズはなく、しょうがないので遠近両用メガネをかけるようになった。しかし、最近は遠近両用コンタクトレンズでいいのが出始めているので、久し振りにコンタクトレンズをして10年近くお蔵入りになっているOakleyを復活させたいと願った次第である。
定期健診とコンタクトレンズ処方のダブルのせいで、想定以上にかなり時間がかかってしまった。検査のために瞳孔を開く薬品を投与されるので、一日中、眩しくて辛い、そして細かい文字に焦点が合わない。上からの陽射しだけではなく下からの照り返しもかなり眩しい。度付きサングラスをして帽子を目深に被り、できるだけビルの日陰を歩く、且つ昨今のウイルス禍のせいでマスクまでしているので非常に怪しい人物になってしまう。
それでも週末に珍しく都心にいる貴重な機会に、御茶ノ水から九段下まで運動がてら歩いて、以前から行きたかった靖国神社の遊就館に行くことにした。拝殿手前の中門鳥居から英霊に掌を合わせて日本国の御加護をお願いして、早速、遊就館に入る。お目当ての零戦の写真を撮り、本当は展示の説明もちゃんと読みたかったが時間がなかったのと上記の理由で細かい文字が読み難いこともあり、急いで奥に進み、彗星や桜花、回天の写真を撮る。人が少なく、写真は撮りやすかったが、意外と若い人や欧米人らしき外国人が多かったのが心強い。
お茶の水disk union Jazz Tokyoにも寄りたくて、再び来た道を歩いて戻る。途中のちょっとお洒落なビルの壁をバックに鮮やかなサイクルウェアを着た女性3人がCerveloとS-WorksとBianchiの写真撮影をしていた。今日は怪しい姿であることを忘れて思わず「ロードレーサーの撮影ですか、カッコいいですね」と声を掛けてしまった。「ロードレーサー？あ、はい、ロードバイクの撮影です」とフレンドリーに応えてくださったが、ご迷惑にならないようにその場を立ち去った。
ぼくは必ず「ロードレーサー」という。昔からそうである。ロードレースにそのまま出場できる自転車という意味でロードレーサーである。いつ頃から「ロードバイク」というようになったのだろうか。MTB（マウンテンバイク）が流行り出して以降、マウンテンに対してロードと言われるようになったという説が有力だ。日本で「バイク」といえばエンジンのついたオートバイのことであるが、英語ではbicycleもbikeも自転車を意味する。しかし、bikeが自転車なら、ロード（道路）を走る自転車はすべてロードバイクである。つまり、ママチャリであれ、補助輪付きの子供用自転車であれ、すべてロードバイクである。そんな自転車ではロードレースは走れない。だから、ぼくは「ロードレーサー」に拘りたい。
そして、日曜日も夏のような好天であったが、ちょこちょこ用事があったのと最近は疲れ気味なのでC59ライドには出撃せず。また来週のお楽しみ。