先週から今週にかけてキツかった。おしりの決まったタスクが山積みで、日付が変わってもPCに向かっていることが多く、昨晩も(今朝か)26:00まで仕事をしていた。というわけで、さすがの自転車バカもこの週末はC59に乗る気力体力がないうえに、九州を襲っている台風のせいか天候も怪しい。

今日は各地に台風の被害がないことを祈りつつ、イタリアの至宝C59を眺めながらお気に入りの音楽を聴く。日曜日ということもあって、まず Bill Evans Trio の Sunday at the Village Vanguard を聴いてみよう。

1961年6月25日 @ Village Vanguard、Greenwich Village, New York

Bill Evans Trio のライブ演奏は Waltz for Debby と Sunday at Village Vanguard というタイトルで2枚のアルバムとなっている。ベースの Scott Lafaro とドラムの Paul Motian を従えたこの日の演奏は Jazz の歴史上最高傑作のひとつと誉れ高い。小川隆夫氏によると、この日は客の入りが悪く、客の拍手からもそれがわかるが、この録音を境に Bill Evans Trio の人気が出てその後満員になるようになったそうだ(小川隆夫著「知ってるようで知らないジャズおもしろ雑学事典~ジャズ100年のこぼれ話~」)。

この日は計5回のセッションが行われたが、2枚のレコードは良いとこ取りをして、観客の拍手の音をフェードアウトしたりして編集したものである。もちろん、この2枚も最高のアルバムであり、長年にわたり愛聴してきた。

しかし、この5回のセッションすべてを録音したマスターテープを編集なしにレコードにしたボックスセットがある。

Disk 1 の冒頭には3人の打ち合わせの声が入り、最初の曲 Gloria’s Step の1:08あたりで突然音が消える。知らないで聴いていると自分のオーディオシステムの故障かと驚いてしまう。実は Village Vanguard で一瞬の停電が発生したのである。数秒後、何事もなかったかのように演奏は続く。

そして客の拍手や3人の声。

この臨場感。目を閉じると自分がVillage Vanguard の片隅に座っている、そして一番後ろのトイレ近くの席に座るオーナーの Lorraine Gordon が微笑んでいる。そんな錯覚さえ感じさせてくれる。

この最高のトリオによる最高の演奏はこれが最後になるとはこの時点ではまだ誰も知る由もない。この11日後に Scott が交通事故で25歳の若さで急逝してしまう。その後の Bill は魂が抜けたようになり、ピアノに再び向かうまでにはかなりの時間を要した。Bill に影響を与えた音楽教師の兄のピストル自殺や恋人の地下鉄への飛び込み自殺など、彼の周りには不幸な死が続く。

彼自身、ご多分に漏れず、薬物常習者であり、肝硬変などから具合が悪くなっても病院に行くことを一切拒否していた。晩年、髭もじゃになったのもむくんだ顔を隠すため、いつも口をつぐんでいるのは歯がボロボロになったためと言われている。Bill の死はもっとも時間をかけた自殺と友人が表現するくらいである。

数々の歴史的なライブ録音を生んだVillage Vanguard のオーナー、Lorraine も2018年6月9日に95歳で Jazz の巨匠たちが待つ天に召された。10年前、薄暗いトイレの前で彼女と言葉を交わしたあのとき、なぜぼくは一緒に写真を撮らなかったのだろう。あまりに夢心地でそれさえも思い付かなかったようだ。

すべての歴史に想いを馳せながら、ぼくは目を閉じて59年前にタイムスリップする。

#Bill Evans #Village Vanguard #Lorraine Gordon