体調が良くなってきたのでそろそろ走ろうかと思っていた紀元節の三連休は天候が悪く、そして今週末も天気が悪いので、引き続き音楽鑑賞と読書三昧。これはこれで幸せな時である。いつだったか御茶ノ水のdisk union JAZZ Tokyoで買って読みかけだった本を読み終えた。
『ジャズ・レディ・イン・ニューヨーク』
(原題: Alive at the Village Vanguard by Lorraine Gordon)
ロレイン・ゴードン、バリー・シンガー 著 行方均 訳
Lorraine Gordonはニューヨークにあるライブハウス Village Vanguardのオーナーで、2018年6月9日に95歳で亡くなった。子供の頃からJAZZが好きだったロレインはJAZZ専門のレコード会社BLUE NOTEの創業者Alfred Lionと1942年に結婚。セロニアス・モンクを見出すなど、ライオンと共に数々の名盤に携わった。その後、Village VanguardのオーナーだったMax Gordonと1949年に再婚し、1989年にマックスが亡くなってからは、ロレインがオーナーとなってライブハウスを経営する。ロレインが亡くなった後は娘のデボラが引き継いだ。
Village Vanguardに何度か出演しているMiles Davisについて、こんなエピソードが紹介されている。マックスとロレインがヨーロッパ旅行に行った際にイタリアで革靴を誂えた。後日、NYに届いた革靴は残念ながらマックスには少し小さかった。そこで小柄なマイルスにプレゼントしたらピッタリで大変気に入ったそうだ。
ロレインが1960年代にはバーブラ・ストライザンドを引き込んで反核運動をしたり、ベトナム戦争に反対して北ベトナムに密入国したことなど、この本で初めて知った。語り口調で綴られているこの本は、妻であり、母であり、ビジネスパーソンであり、平和運動家であるロレインの人生と1940年代から80年代のアメリカ社会を著している。
多くのライブ名盤が残るVillage VanguardはJAZZ好きには一度は行ってみたい聖地のひとつだが、2012年4月、ぼくは仕事でNYに出張することになり、巡礼を果たした。
W 55th St. にあるDreamというホテルに滞在し、Park Ave.にある印刷会社と10時に打ち合わせ開始。ランチにはクライスラービルの足元にあるレストランで、担当者に副社長も加わって、14ozのデカいステーキを食べた。午後からの打ち合わせも終え、ホテルに戻り、大急ぎで本日の打ち合わせ結果を2枚にまとめ、メール添付で日本に送付後、念願のVillage Vanguardを目指した。
ホテルはBroadwayと7th Ave.の間という便利なロケーションで、50th St. Broadwayから地下鉄に乗って、Greenwich Village に。しかし、事前に地図で確認していたにもかかわらず、いきなり地下鉄の乗る方角を間違えた。50th St.からVillage Vanguardの最寄り駅14th St.は「downtown」方面の地下鉄に乗らないといけないのに、「uptown」方面に乗ってしまった。なぜ間違ったのか不思議に思っていたが、おそらく、NYの場合、地図の上の方(uptown)に行くとSt.の数字が大きくなっていき、地図の下の方(downtown)に行くと数字が小さくなる。つまり、京都の逆なのだ。京都は地図の下、つまり南に行くと一条から十条と数字が大きくなるのだ。St.の数字が小さくなる=地図の上に行くと錯覚してしまったのかもしれない。三つ子の魂、百までか …。
14th St. 駅で地上に出て数ブロック歩くとすぐに写真で見覚えのある赤いネオン看板が目に入った。地下に続く階段を降りて店の入口で名前を告げる。年齢確認のIDを見せろと言われるかと思ってすでに有効期限が切れたカリフォルニアのドライバーズライセンスを持ってきたが、スーツ姿の43歳(当時)のおっさんは、いくら日本人が童顔に見られるとはいえ、さすがにIDを求められることはなかった。100人も入らない小さなライブハウスにまだ二人しかいない。客席のどこに座るか一瞬迷ったが、なにも迷うことはない、一番前のテーブルに陣取った。
左の目の前に年季の入ったSteinway & Sons のピアノ、右の目の前にはドラム、その間に無造作にベースが転がっている。壁にはJAZZの偉人たちの写真が並ぶ、ジョン・コルトレーン、 ソニー・ロリンズ、セロニアス・モンク、ビル・エバンズなど。21:00の開演にはまだまだ時間があると思っていたら、あっという間に時間が過ぎていく。あのVillage Vanguardに自分がいる、そして開演を今か今かと待っている。これは単なる待ち時間ではなく、至高の時間である。
開演前にトイレに行っておこう。トイレの手前、壁際の一番奥にReservedの札が置かれたテーブルがあった。誰か著名人が来るにしてはトイレの近くの薄暗い席である。不思議に思ったが、ライブ終了後にもう一度トイレに行くと、そこにはLorraine Gordonが座っていた。
横を通ると目が合った(ような気がした)。緊張しながら「Mrs. Gordon, thank you so much. My dream’s just come true, and I really enjoyed tonight」と言うと、ロレインはニコッと微笑んで「Thank you for coming」と言ってくれた。一緒に写真を撮ってもらえば良かったと後悔するが、確かVillage Vanguardは撮影禁止なので遠慮したのかもしれない。お願いすれば気さくに応じてくれたとは思う。
この日のライブは、前衛的というのか、ぼくの好きなタイプのJAZZではなく、時差ボケによる5時起きのせいもあって途中ウトウトしてしまったが、十分に満足だった。狭い階段を上がり、少し寒くなったGreenwich Villageの空気を胸いっぱいに吸ってからタクシーを拾ってホテルに戻った。
〔ぼくがもっているVillage Vanguardライブ録音〕
Bill Evans, The Complete Village Vanguard Recordings, 1961
Bill Evans, Waltz for Debby
Bill Evans, Sunday at the Village Vanguard
Sonny Rollins, A Night at the “Village Vanguard”
Christian McBride, Live at the Village Vanguard
Joshua Redman, Spirit of the Moment Live at the Village Vanguard
#Village Vanguard #JAZZ #Lorraine Gordon